家づくりで使われる屋根材、壁材、床材。
かつてそれらはすべて自然素材でした。しかし現代住宅のほとんどは「新建材」と呼ばれる塩化ビニルやポリエステル、プラスチックなどでできた材料を中心に作られています。
たとえば本物の木の代わりに薄く木をスライスして接着剤で固めた「集成材」の柱。木の床板の代わりにビニール製の木目調のクッションフロア。木枠の窓の代わりにアルミサッシを、土壁の代わりにビニールクロスが使われています。
そのような新建材はコストも安く、納期も短く、工事がしやすいのですが、古来より使われてきた自然素材に比べると、シックハウスの原因となったり、経年劣化でみすぼらしくなったり、短寿命だったりデザイン的に劣っていたり…
何の疑いもなく使われ続ける新建材に、そういったデメリットがたくさんあることは、残念ながらあまり知られていません。
このコンテンツでは、最近になり注目を浴びるようになった自然素材に改めてスポットを当て、伝統的な素材がどのように優れているかをご紹介していきます。
一般的に、日本の住宅の建て替えサイクルは30年周期と言われています。
住宅の寿命は30年であり、資産価値もそれに合わせるように減衰し、木造住宅であれば30年後の価値はほぼゼロになるというのが、この国の常識です。
しかし、西欧では事情が大きく異なります。
上図の通り、アメリカでは103年、イギリスでは141年。日本よりもはるかに住宅の寿命が長いのです。
石造り、レンガ造り、湿気が少ない、地震が少ないという物理的な理由もありますが、そういった諸原因のせいで、果たしてここまで大きく変わるものでしょうか。
たとえば同じ木造が主流のアメリカでは、使う材料が同じであるにも関わらず、木造住宅は3倍以上の長寿命となっています。
この原因は一体何なのでしょうか?
この国における家の寿命が30年だとすると、30年経った家はどうなるのでしょうか。
ある日突然バラバラに崩壊するのでしょうか。そんなわけはありません。では、少しずつ壊れていくのでしょうか?
いいえ、家は徐々に傷みはしますが、構造が自然に壊れるということはありません。
では、なぜ家は30年経つと解体され、建て直されるのでしょうか。
それは、この国では家は受け継ぎ守っていくものではなく、たえず開発されて販売される「商品」であり、同時に「消耗品」となっているからです。
古くなった携帯電話を買い替えるように、家もまた古くなれば飽きられ、新しい家が宣伝され、建て替えられるのです。
家が飽きられる理由。その大きな原因が、実は使われている素材だということをご存じでしょうか。
新建材で作られた家は、携帯電話と同様に、新品の引き渡しの時が一番きれいです。
ところが生活していくうちに汚れ、傷つき、色が褪せ、新品の頃の輝きはどんどん失われていきます。
そうして20年、30年も経てばみすぼらしく、目にするたびに溜息が出る「ボロ家」という印象になってしまいます。
一方、かつての日本の家は、木や石や土といった自然素材で作られていました。
自然素材で作られた家は30年経つとどうなるでしょうか?
みすぼらしくなるでしょうか?
たとえば近所のお寺の、70年経った瓦屋根や土壁はどうでしょう。
築1300年の法隆寺の床板は、汚くてみすぼらしいでしょうか?
言わずもがな、本当の意味で長寿命なのは、自然素材です。
土も石も木も、見た目が悪くなるような劣化はしません。自然の森のうつろいのように、その姿を自然に変えていくだけなのです。
土、石、木。この自然素材のうち、長寿命の家をつくる上で最も欠かせないのが木材です。
木造住宅はその名の通り「木」でつくられます。
上図の通り、その耐久性は30年どころではありません。なんと200年、300年経った頃が強さのピークなのです。
その寿命の長さはすなわち家の寿命の長さでもあります。
ここでは日本の住宅に使われる、様々な木の違いについてご紹介します。
防虫や防腐の効果のあるタンニンを多く含み、日本全体に分布しているため供給が豊富。腐りにくいため土台や柱などの構造材に用いられるほか、杭や枕木にも利用されてきました。
杢が美しく高級感があり、大黒柱などに多く利用される高級な材です。家を支える象徴として日本人が大好きな木。床板(とこいた)などにも使われます。
欅に並ぶ高級感のある木で、欅と比較するとおとなしく上品のある木です。大黒柱や床板、テーブルなどの家具にも多く使われます。
広葉樹では日本で最も普及している木材です。木目が美しく重厚で固いため、床材や家具にも用いられます。また木目の美しさから、薄くスライスして化粧合板の表面材としても使われています。
日本中で伐採され、住宅に一番多く使われています。柔らかく加工が容易で湿気の吸放出率が高いため、湿度管理に優れた木材です。赤味は腐朽しにくいことから、土台にも使われ、柱・桁・板材など住宅に適した木材です。
香りが良くきめが細かく加工性がよいため、多くの箇所に使われる木材です。水に強く腐朽しにくいので、柱材だけでなく土台にも使われます。
油分が多く含まれ、粘りがあり、梁などに使われます。磨くと艶が出て輝くことから床材などにも使われますが、シロアリ・木蠧虫などには弱いため注意が必要です。
「ヒノキチオール」を豊富に含み、抗菌作用が強く、独特の香りがします。土台や水廻りに多く使われ、将棋盤などにも使われます。
木質のきめが細かく木目が美しいため、柱などの高級木材として親しまれてきました。針葉樹としては強度があります。
新築はもちろん、新建材だらけの中古の家においても、リフォームによって自然素材を取り入れることは可能です。
外壁、屋根、天井、壁、床、建具。それらに自然素材を採用することで、家の質とデザイン性がぐっと高まります。ここではどのような場所にどういった素材を使えばよいかをご紹介します。
柱や梁、大引や垂木といった構造材はもちろん、天井板や腰板、床板、窓やドアなどの建具、そしてテーブルや椅子などの家具まで、あらゆるところに使うことができる万能素材です。先述のように様々な樹種がありますが、木を扱える本物の大工さんであれば使う場所ごとに適切な樹種を選んでくれます。
年月が経つごとに色と味わいを深め、眺めても触っても、住む人に優しい安心感を与えてくれる素材です。
柱に使えば300年以上の耐久性が出ますし、外壁を板張りにすればメンテナンスフリーの気楽さとデザイン性の高さを両立することができます。
また、床に使えば素足で歩く心地よさを得られ、椅子を作ればその手触りの気持ちよさは永遠に続くでしょう。
コスト的には、新建材に比べれば多少はアップしますが、スギなどの安い樹種を使うとそれほど価格は変わりません。「無垢材は高い」という先入観を捨てて、木で施工できるところは無いか、大工さんに相談してみてください。
現代住宅のほとんどは、スレート屋根と呼ばれる粘土板岩を加工した屋根材が使われています。価格が安い、重量が軽い、施工がしやすいという理由で採用されていますが、その寿命はわずか10~20年。
対して昔からの瓦屋根はどうでしょうか。
土を焼いて作る瓦屋根の寿命は、一般的には100年程度です。一度葺けば、2世代、3世代先まで使えるのです。
また遮音性も高く、メンテナンス性も良好。何より日本人が親しんできたデザインの美しさは、世界的にも評価されています。
ネックとなるのは価格と重さですが、前述の通り初期コストはかかるものの、ランニングコストを考えれば高いということはありません。
また重さに関しても、新築であれば耐震基準をクリアしていれば、リフォームなら建物のコンディションが正常であれば、それほど気にすることはないと言えるでしょう。古民家においては、屋根の重量で家を押さえているため、軽くすると逆に不具合が出る場合もあります。
古民家の瓦は釘止めされていないため、地震が揺れると重量を減らそうとしてわざと落下するようになっています。台風の時も家ごと・屋根ごと飛ばされるのを避けるため、重さで家を支え、飛ばされる時も1枚単位で済みます。マスメディアは派手な映像が欲しいのでよく瓦が散乱しているシーンを映しますが、それは本当は「屋根が壊れた」ということではなく、「家を守った」という証なのです。
3000年近くの歴史がある屋根瓦には、そのような先人の知恵と工夫が詰まっています。
今の新築やリフォームで土壁を選ぶ人はほとんどいません。
なぜならものすごく安価で手に入りやすい「石膏ボード」というものがあるからです。
これがどういったものか知りたい方は近くのホームセンターで見てみてください。大きなパネル1枚が数百円という安さで売られています。
現代住宅の壁は、この数百円のパネルでできています。このパネルの上にビニールクロスを貼れば、それが壁になるのです。
対して土壁の工法は複雑です。
竹小舞という竹を網目状に編んだ下地を作り、そこに土を塗っていきます。そうして作られた本物の土壁は耐火性、耐震性、蓄熱性、調湿性、遮音性に優れ、住宅においては究極の壁になります。
しかし職人が何日も費やして作っていくため、コスト的に余裕のある人以外は選択しにくいのが現状です。
土壁が難しければ、構造材は新建材である石膏ボードを使い、仕上げは自然素材を使うという選択肢もあります。
珪藻土や漆喰は、石膏ボードの上に塗ってもその効果を発揮します。特に調湿性に優れ、部屋の湿度が常にコントロールされるだけでなく、手触りも優しく、見た目も味があります。今はDIYで気軽に塗れる製品も多く登場していますので、これを選ばない手はありません。
今ほとんどの家で使用されている「新建材」はすべて水が関わらない乾式工法のため、納期も安定し、スケジュールも組みやすく、施工も楽で、見た目の価格も下げられます。しかしそういったメリットはすべてメーカーや工務店のためのメリットであり、その家に何十年も住み続けていく施主のメリットではありません。
そのことに気づけるかどうかで、家の素材選びは大きく変わります。
売り文句に流されるのではなく、まずは正確な知識を身につけ、できれば実物を見学したり触ってみたりして、あなたにふさわしい素材を選んでください。