住育のすすめ 3「最高の家でなく、『最適の家』を探しましょう」
※この記事は、『住育のすすめ~住まいを考える50の方法~』(竹島靖著/角川SSC新書/2007年刊)を1節ごとにご紹介していくコンテンツです。
第1章 悩む。
賃貸か、持ち家か、それが問題だ。
3 最高の家でなく、「最適の家」を探しましょう。
いい家って何でしょうね。
わたしは「いい家とは、いい人生を送れる家」だと思います。では、いい人生って何でしょう。それはどんな書物にも載っていません。誰に聞いても教えてくれません。当たり前ですが、自分で決めるしかないのです。そう、「どう生きるか」が「どう住まうか」になります。誰にとっても最高の家なんて存在しません。もちろん予算というファクターがありますから優先順位の整理も必要。100の家族があれば、100通りの住まい観=モノサシがあっていい。たとえば賃貸、持ち家、集合住宅、一戸建て。いろんな住まいの形態があるし、ふさわしい広さ、構造、設備があります。
たとえば広さ。床面積でいうと、1人あたり最低3畳半は必要という調査データもあります。過密居住は、つねにある種の緊張状態を生み、ストレスの原因になるのです。妊婦や乳幼児に対する悪影響も指摘されています。
しかし広すぎる家も不便です。少なくても一人暮らしには、まちがいなく不便です。父の建てた実家に、1人で1週間ほど寝起きした経験があります。掃除機だけで3時間必要。床にぞうきんをかけて窓をふいたら日が暮れます。和室で寝ていたら広すぎて落ち着きません。ふとんを真ん中に敷いたり、隅に敷いたり工夫してもダメでした。夜中にトイレへ行くときは、あっちこっちの電灯をつけまくることになります。1人でキャデラックに乗って、コンビニへ買い物に行くような感じでしょうか。そのせいもあって大きな家や豪邸に対する憧れはまったく育ちませんでした。
住まい観の話に戻ります。どんな人生を送りたいのか。どんな住まいがふさわしいのか。思いつく要素を順番に紙へ書き出してみましょう。「住宅スゴロク」なんてものは忘れてください。賃貸アパートから始まって、持ち家一戸建てで上がり。そんなのは、日本国と産業界が結託し、でっちあげた20世紀の幻想です。どんなふうに生きようが、どんなふうに住もうが自由です。『死ぬまでにしたい10のこと』(2002年/スペイン・カナダ合作映画)という作品があります。人生は永遠ではありません。この文章もやがて土に還ります。命を捧げてもいいような「ライフワーク」があれば、それを軸に生きたほうが笑って死ねるような気もします。しかし、「ライスワーク」しなければメシが食えません。そのバランスをどう取るか。
もちろん、どんな街に住みたいかも重要です。都市には華があり、田園には花が咲きます。そして賃貸と持ち家には、それぞれ長所短所があります。住むことは生きること。さまざまな選択肢があり、絶対的な正解はありません。将来は外国に住みたい。森の中で暮らしたい。死ぬまでに何をしたいですか。「どう人生をデザインするか」「どう家族との関係をデザインするか」。そんなマスタープランを30分でもいいから考えたうえで、住まいのことを打ち合わせてゆきましょう。
【持ち家6つの選択肢】自分なりにメリット・デメリットを考えてみました。①土地を探して一戸建てをつくる方法。時間、予算、知識が必要。②建売住宅。欠陥住宅の含まれる可能性が一番高いという専門家もいます。③中古の一戸建て。現況をチェックすれば「不同沈下」など致命的な問題の多くが見分けられます。日当たり風通しが体験できます。④新築マンション。建物の寿命や区分所有法について知るほど、選択肢からは外れました。⑤中古マンション。管理の状況が確認できます。⑥コーポラティブハウス。有志で相談しながらつくる集合住宅。費用対効果を考えるとマンションよりも魅力的。ただ、完成するまで打ち合わせなども多く、一定量の情熱や知識がないとたいへんだと思いました。
続く
投稿者プロフィール
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1960年生まれ。東京都在住。コピーライター、プランナー、日本住育の会代表。日本では導入例がきわめて少ない既存住宅性能表示を利用して耐震診断をおこない、中古住宅を購入。その後に耐震工事を実施。「日本住育の会」は、「よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動」をおこなう非営利の団体。2006年5月設立。
住育二部作の後編は、『危ない「住活」』(竹島靖著/竹書房新書/紙版2013年刊・電子書籍版2019年刊)。著作は、単著2冊および共著5冊で合計7冊。コピーライターとしては、宣伝会議賞金賞・銀賞・銅賞など15の賞を受賞。
【住育】じゅういく
①「住まい」に関する教育。
②キレない子どもをつくる、正しく子どもを導くなどに限らない、体系的な見識。
③知らないことは教えられません。子どもたちに「住育」する前に、まず大人が最低限の「住まい観」を養うべきです。
④よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動。
⑤たんなる営利目的の手段として「住育」が使われるときは、警戒が必要です。
(日本住育の会による定義/2007年10月現在)
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