住育のすすめ 11「最悪の新築もあれば、最良の中古もあります」

※この記事は、『住育のすすめ~住まいを考える50の方法~』(竹島靖著/角川SSC新書/2007年刊)を1節ごとにご紹介していくコンテンツです。

第3章 買う・借りる。

中古や賃貸で、かしこいリスク回避。

11 最悪の新築もあれば、最良の中古もあります。

 あの一年は、わたしの人生にとって最も過酷な一年でした。こうやって本を書くために過去の記憶へ分け入り、重要なシーンを追体験すると、いまでも胸が苦しくなり、手のひらが汗ばんできます。

 2006年2月、引っ越し。わたしは最終的に中古の一戸建てを選びました。思えば、見識の欠如に愕然とし、住まいに関する価値観を家族で共有するたいせつさを再認識した一年でした。住まいを買う。おもに5つの選択肢があります。

 一戸建ての新築(建売住宅)。

【長所】子どもたちはガンガン遊べます。当時のわたしは引っ越しを18回経験。集合住宅では、音の問題に悩まされた経験があるのです。上下左右に気を使いながら育児するのは、全員にストレスがたまるだろうなと思いました。さらに一戸建てならば、契約日の翌日に関東大震災がきて全壊しても土地は残ります。坪100万円としましょうか。26坪あれば2600万円です。2600万円のローンを組んでいたとしたら、土地を手放せば清算できます。庭があれば、打ち水してヒートアイランドの対策をしたり、ガーデニングできます。子どもたちは庭で遊ぶこともできます。

【短所】欠陥住宅の含まれる可能性が一番高いという専門家もいます。多くの場合、合板フローリングで壁はビニールクロス。化学物質てんこ盛り。要はシックハウスの一種です。当時、長男は3歳。夏に妻は妊娠しており、出産をひかえていました。外観も、デコラティブで美しいとは思えませんでした。

 一戸建ての中古。

【長所】現況チェックが可能。欠陥や不具合は、竣工して数年たてば出るケースが多いです。築数年で問題がなければ、おそらく不同沈下しないでしょう。日当たり風通しが体験できます。築数年たてば化学物質もほとんど揮散。個人の裁量で耐震補強工事が可能です。

【短所】パーフェクトにメンテナンスされた物件なんて見つかりませんでした。修繕費用は必須。しかもオーナーの住んでいる物件も多く、自分で建物を精査するのは不可能。ですから「既存住宅性能表示」を活用し、第三者に調べてもらおうと思いました。

 マンションの新築。

【長所】構造計算が必須。性能表示を利用した物件も多く、耐震性が期待できるはず。

【短所】構造計算は正確でしょうか。あるいは構造計算に準じて建つのでしょうか。青田売りの場合、日当たり風通しが体験できません。地震で倒壊したらどーんとローンが残ります。不同沈下やシックハウスの可能性も否定できません。さらに区分所有法は、くせ者。

 マンションの中古。

【長所】現況が確認できます。日当たり風通しも体験できます。

【短所】古くなるほど建て替えという難問が迫ってきます。地震で倒壊したらどーんとローンが残ります。共用部は勝手にリフォームできません。

 コーポラティブハウス。

【長所】打ち合わせを重ねれば、納得できる集合住宅に暮らすことができます。しぜんとコミュニティーが形成されるメリットも。

【短所】完成まで時間が必要です。物件じたいも豊富ではありません。

 強調しておきたいのは、日本人の異常な新築好きです。世界的にも希有。いったん偏見や思い込みを捨て、公平に5つの選択肢を俯瞰したほうがよいのではないでしょうか。

投稿者プロフィール

竹島靖
竹島靖
1960年生まれ。東京都在住。コピーライター、プランナー、日本住育の会代表。日本では導入例がきわめて少ない既存住宅性能表示を利用して耐震診断をおこない、中古住宅を購入。その後に耐震工事を実施。「日本住育の会」は、「よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動」をおこなう非営利の団体。2006年5月設立。
住育二部作の後編は、『危ない「住活」』(竹島靖著/竹書房新書/紙版2013年刊・電子書籍版2019年刊)。著作は、単著2冊および共著5冊で合計7冊。コピーライターとしては、宣伝会議賞金賞・銀賞・銅賞など15の賞を受賞。

【住育】じゅういく
①「住まい」に関する教育。
②キレない子どもをつくる、正しく子どもを導くなどに限らない、体系的な見識。
③知らないことは教えられません。子どもたちに「住育」する前に、まず大人が最低限の「住まい観」を養うべきです。
④よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動。
⑤たんなる営利目的の手段として「住育」が使われるときは、警戒が必要です。
(日本住育の会による定義/2007年10月現在)
category:住育のすすめ  |    |  2020.11.19

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