住育のすすめ 7「建築家イコール贅沢ではありません」

※この記事は、『住育のすすめ~住まいを考える50の方法~』(竹島靖著/角川SSC新書/2007年刊)を1節ごとにご紹介していくコンテンツです。

第2章 建てる。

最低でも100年使うという発想。

7 建築家イコール贅沢ではありません。

 愉快な人もいれば、不愉快な人もいました。

 わたしは持ち家プロジェクトが始まって以来、つごう10人以上の建築家と出会いました。いまでも、メールや作品展の案内をくださるかたもいます。白状しますが、こんど生まれてきたら映画監督か建築家になりたいと思っていました。シンパシーやリスペクトの念があるわけです。それを割り引いてお読みください。

 持ち家プロジェクトの初期には、家を建てることが視野に入っていました。やがて、新耐震基準の中古を買ってリフォームするというプランに移行。そのいずれのタイミングでも数名の建築家に相談しました。当初考えたのは、東京・新宿「リビングデザインセンターOZONE」の住宅プロデュースシステムを利用することです。3人の建築家にプランを提示してもらい、施主が選ぶというスタイル。「建築家コンペ提案コース」です。プロデューサーの仕切りで設計・施工を進めてゆきます。家づくりは、有能なプロデューサーに立ってもらったほうがスムーズに運ぶ可能性も高い。これが、わたしの仮説でした。建築家は一種のクリエイターですから、謹厳実直でソツのないタイプなんて少数派だと思っています。何らかのクセやアクは、つきものだろうという考察。わたしもコピーライターというクリエイターですから、そのあたり他人とも思えません。予算に関してルーズな人。ハンコをおしたとたんオセロゲームのように態度が豹変する人。そんな自称建築家もいるようですし。せっかく家づくりという最高のクリエイティブを依頼したクリエイターと泥沼の関係になるのは、何としても避けたいわけです。

 建築家に依頼する理由は2つあると思います。創造力と完成度。たとえば神奈川県に「屋根の家」という住宅があります。42坪の屋根へ登れるようになっています。もう一つのリビングルームは42坪です。つまり84畳の屋根に腰掛ければ青空まで吹き抜けです。施主と建築家の幸福なコラボレーションではないでしょうか。『渡辺篤史の建もの探訪』(東北新社)のDVDをぜんぶ観ました。施主の夢や勇気を受けとめた建築家の創造力が遺憾なく発揮されており、ながめているだけで幸福感や嫉妬に満ちてきます。『住宅巡礼』『住宅読本』(ともに中村好文著/新潮社)。ページをめくっていると、静謐な空気まで立ち上ってくる見事な本です。たとえば住宅の最高峰、天才フランク・ロイド・ライトがカムバックを託した落水荘。傑作は時代を超えて残ってゆきます。施主は、建築家の丹精や呻吟の声を感じながら世界で一点だけの「作品」に住むことができます。一般的な生活者が建築家へ自邸を発注するなんて、じつは日本ぐらいです。少し腰を据えて建築の勉強をしてみる。好きな建築家に出会うまで作品集をチェックしたり、オープンハウスへ出かけてみる。直接、言葉を交わしてみる。そして、優秀で相性のいい建築家にオーダーメードの家を頼む。家族の矛盾する希望を昇華した、使い勝手のいい愛着のわく住まいができそうじゃないですか。オートクチュールは、やがてアンティークへと「経年美化」してゆきます。

 そんな蜜月の関係に至らないまま、建築家へ頼んだことを後悔する施主もいます。3回以上現場へ足を運んだら赤字になるから行かない建築家。住み心地より斬新な意匠を優先する建築家。自邸がシックハウスになった建築家。そう、建築家は聖人君子でも万能でもありません。作品づくりの実験台にされる可能性もあるとか。

 建築家に頼むイコール贅沢ではありません。ローコスト住宅のアイデアを積極的に出してくれるケースもあります。あるいは完成した家の有形無形の価値を冷静に評価できれば、建築家へ頼む意義はあると思います。それは贅沢ではなく、とても実用的な選択です。

投稿者プロフィール

竹島靖
竹島靖
1960年生まれ。東京都在住。コピーライター、プランナー、日本住育の会代表。日本では導入例がきわめて少ない既存住宅性能表示を利用して耐震診断をおこない、中古住宅を購入。その後に耐震工事を実施。「日本住育の会」は、「よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動」をおこなう非営利の団体。2006年5月設立。
住育二部作の後編は、『危ない「住活」』(竹島靖著/竹書房新書/紙版2013年刊・電子書籍版2019年刊)。著作は、単著2冊および共著5冊で合計7冊。コピーライターとしては、宣伝会議賞金賞・銀賞・銅賞など15の賞を受賞。

【住育】じゅういく
①「住まい」に関する教育。
②キレない子どもをつくる、正しく子どもを導くなどに限らない、体系的な見識。
③知らないことは教えられません。子どもたちに「住育」する前に、まず大人が最低限の「住まい観」を養うべきです。
④よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動。
⑤たんなる営利目的の手段として「住育」が使われるときは、警戒が必要です。
(日本住育の会による定義/2007年10月現在)
category:住育のすすめ  |    |  2020.07.19

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