住育のすすめ 10「構造は、コストダウンしないでください」

※この記事は、『住育のすすめ~住まいを考える50の方法~』(竹島靖著/角川SSC新書/2007年刊)を1節ごとにご紹介していくコンテンツです。

第2章 建てる。

最低でも100年使うという発想。

10 構造は、コストダウンしないでください。

 予算は、見えない所にかけてください。ここは、そういう話です。

 家づくりに潤沢な予算を用意できる人は少数派。たいていは、寄せて上げるブラを始めて手にとった女子のように、試行錯誤しながらあっちこっちから頭金をかき集め、ローンを組みます。一般的な家は10万点の部品で構成されているとか。そのすべてにおいて、建築家や大工さんが頬ずりするような最高のパーツを揃えるのは事実上不可能です。

 限られた予算をどこにかけるか。100年使う家のためにどう差配するか。さっきからソファでカタログを開き、400万円の赤いイタリア製システムキッチンをうっとり眺めている妻にどうプレゼンするか。わたしも一度、木造の総2階で建てるシミュレーションをしたことがあります。ここから先は、わたしならこう予算を使うという仮説です。

 わたしはズバリ、構造にお金をかけます。すなわち「見えない所」「あとから取り替えるのがたいへんな所」。まず地盤調査。スウェーデン式サウンディング試験なら数万円で可能です。おっと、その前に土地の履歴を追跡します。わたしはいま住んでいる家を購入するとき、地元の図書館の地図をめくり当該地の昔の姿をリサーチしました。地盤調査で得られる地耐力などのデータにもとづいて基礎を設計。地盤調査もしないで「ベタ基礎ならいいでしょ」なんて工務店は出入り禁止です。もちろん、必要であれば地盤調査をおこないます。2005年夏、ある一戸建ての購入を検討しているとき、建築家に相談したことがあります。

「げっ、もし不同沈下したら家ごとジャッキアップですか。いくら予算いりますか」

「まあー、この物件だったら500万円ぐらいかな」

 500万円。うーん。思い出してもフリーズしそうです。地盤調査は、ベリーとても絶対に何がなんでも必須です。奥さんが何と言おうと押し切ってください。そのイタリア製システムキッチンのカタログなんて取り上げて、床に叩きつけるぐらいの気合で意思表示しましょう。数万円をケチるか。500万円を払うか。悩む余地なんてありません。

 つぎは、構造躯体=スケルトン。土台、柱、梁などにいきましょう。適切な樹種の太い無垢を使います。シロアリに強いといわれる総ヒノキや総ヒバには、こだわりません。ベイツガなどの食害にあいやすい木は却下ですけども。産地を吟味した高価な銘木に拘泥するのは普請道楽のペダンチズムです。木は太さが大切だと思います。前出の建築家も言いました。「柱はね、三寸五分より、四寸角がいいよ」。もし傷んでも四寸角は、一定の太さが残るからという主旨でした。

 ここからはテクニカルな領域なので、複数の専門家によるセカンドオピニオン。「意外に知られていませんが、全工事中に占める木材費の割合は、一五パーセント程度にすぎません。しかし、木材費を数パーセントアップさせるだけで、家屋の強度が数倍にもなるのです」(『地震・火災に強い家の建て方・見分け方』設計共同フォーラム著/講談社)。同書には頼もしいフレーズが踊ります。「工事費を2%増やすだけ」で、「家の構造的な強さは2倍以上」「家の寿命は2倍」。

 こんな建築家の意見もあります。「長持ちする家には木材の種類が重要だと考える人も多いでしょう。例えば家は総ヒノキのほうがいいという考え方です。ところが私自身は、木材の種類を問うよりも、その分使う木材を太くするほうが良いと思っています。ヒノキにこだわるのは精神的な問題ではないでしょうか」(『知ってますか? いい家の値段』小林高志著/ニューハウス出版)。わたしの家の理想は骨太でノーメイクの美人。たとえば床は節ありの無垢を張って、壁はドイツの「ルナファーザー」を使いたいですね。

投稿者プロフィール

竹島靖
竹島靖
1960年生まれ。東京都在住。コピーライター、プランナー、日本住育の会代表。日本では導入例がきわめて少ない既存住宅性能表示を利用して耐震診断をおこない、中古住宅を購入。その後に耐震工事を実施。「日本住育の会」は、「よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動」をおこなう非営利の団体。2006年5月設立。
住育二部作の後編は、『危ない「住活」』(竹島靖著/竹書房新書/紙版2013年刊・電子書籍版2019年刊)。著作は、単著2冊および共著5冊で合計7冊。コピーライターとしては、宣伝会議賞金賞・銀賞・銅賞など15の賞を受賞。

【住育】じゅういく
①「住まい」に関する教育。
②キレない子どもをつくる、正しく子どもを導くなどに限らない、体系的な見識。
③知らないことは教えられません。子どもたちに「住育」する前に、まず大人が最低限の「住まい観」を養うべきです。
④よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動。
⑤たんなる営利目的の手段として「住育」が使われるときは、警戒が必要です。
(日本住育の会による定義/2007年10月現在)
category:住育のすすめ  |    |  2020.10.19

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