住育のすすめ 12「新築は、不同沈下の可能性を秘めています」
※この記事は、『住育のすすめ~住まいを考える50の方法~』(竹島靖著/角川SSC新書/2007年刊)を1節ごとにご紹介していくコンテンツです。
第3章 買う・借りる。
中古や賃貸で、かしこいリスク回避。
12 新築は、不同沈下の可能性を秘めています。
建売住宅に対する偏見はありませんでした。
しかし見れば見るほど、知れば知るほど好きにはなれませんでした。足をのばして東京都町田市。そして神奈川県藤沢市。やはり、建売住宅は好きになれません。建売住宅を買うなら、むしろ中古がいいんじゃないかと思いました。理由は5つあります。
【理由1】デコラティブな意匠や内装などが美しいと思えませんでした。デザインとデコレーションは異なります。本質を吟味せず、装飾に長けている印象。コンクリート打ちっぱなし柄のサイディングを目にしたとき、沈鬱な気持ちになりました。日本の街には、ハリー・ボッテーの住むメルヘンな家がたくさんあります。
【理由2】構造が貧弱で、表層的な要素にお金をかけていること。ベイツガ土台、合板フローリング、ビニールクロス。これが建売住宅3点セットだと思いました。さらに基礎の立ち上がり300㎜を加えて4点セットと呼んでもいいです。目に見えない部分、あとから交換するのがたいへんな部分こそ、しっかり予算を投入すべきだという持論からすれば正反対。骨細な構造とは裏腹に、ちょっと豪華そうに見えるよう如才なく見た目は整えています。
【理由3】シックハウスの一種であること。建築基準法の改正で24時間の換気システムが義務づけられました。これは何を意味するのでしょうか。揮発する化学物質を根絶することなく、換気扇を回すことでお茶を濁す。えへへ、じつはシックハウスなんですよーと白状しているようなものです。「F☆☆☆☆」だから安心です、なんて妄言です。Fはホルムアルデヒド(Formaldehyde)のF。ほかにもさまざまな化学物質が大量に浮遊しています。
【理由4】地盤に対する無神経が恐怖でした。絶対に避けたかったのは、不同沈下です。なのに、地盤調査していませんと平気で言う業者が複数いました。都営地下鉄S線M駅近くのYハウジングの営業マン。「うちは建物に自信持ってます。公から買った土地なので、地盤調査せずに建てました。10年保証ついてますからだいじょうぶです」。ただし、10年保証は自社保証。業者が倒産したら、それきりです。2005年当時は、自社保証という恐怖の制度が認められていました。家が傾き、会社が傾いたら、シワ寄せは生活者にきます。
【理由5】建売住宅が10年後、20年後、ぶじに建っている保証はありません。建売住宅は現物がチェックできます。しかしチェックには限界があります。「筆者の経験上、建売住宅や注文住宅の区別なく、住宅供給業者の1/3が上質な住宅を建て、1/3が普通の住宅を建て、残りの1/3は粗悪な住宅を建てています」(『折り込みチラシで見分ける 買っていい家わるい家。』堀清孝著/ネコ・パブリッシング)。そして「木造3階建ては買ってはいけない」「銀行の融資担当者は、耐震性の判断などはしていない」と明言するのは、『住宅選びこれだけ心得帖』(長嶋修著/日本経済新聞社)。
新築の建売住宅を買いたいという場合、わたしだったら絶対に、信頼できる専門家へ相談します。土地の履歴を追跡し、建物はあらゆる手段で調査します。ファイバースコープ。サーモグラフィー。聞き込み。既存住宅性能表示。考えられるすべてのアプローチで精査します。それでも、すべてが判明するわけではありません。新築住宅が数年後、不同沈下するかしないか。それを知っているのは現場の施工業者だけかもしれません。いや、施工業者さえ分からないかもしれません。書物に載っている建物チェック法は、机上の空論も多いなと思いました。ところで、あのー、誰も住んだことのない家って恐くないですか。シックハウスや不同沈下の実物大実験という見方もできますし。
投稿者プロフィール
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1960年生まれ。東京都在住。コピーライター、プランナー、日本住育の会代表。日本では導入例がきわめて少ない既存住宅性能表示を利用して耐震診断をおこない、中古住宅を購入。その後に耐震工事を実施。「日本住育の会」は、「よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動」をおこなう非営利の団体。2006年5月設立。
住育二部作の後編は、『危ない「住活」』(竹島靖著/竹書房新書/紙版2013年刊・電子書籍版2019年刊)。著作は、単著2冊および共著5冊で合計7冊。コピーライターとしては、宣伝会議賞金賞・銀賞・銅賞など15の賞を受賞。
【住育】じゅういく
①「住まい」に関する教育。
②キレない子どもをつくる、正しく子どもを導くなどに限らない、体系的な見識。
③知らないことは教えられません。子どもたちに「住育」する前に、まず大人が最低限の「住まい観」を養うべきです。
④よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動。
⑤たんなる営利目的の手段として「住育」が使われるときは、警戒が必要です。
(日本住育の会による定義/2007年10月現在)
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