住育のすすめ 2「マイホームのドアは、天国か地獄へ通じています」

※この記事は、『住育のすすめ~住まいを考える50の方法~』(竹島靖著/角川SSC新書/2007年刊)を1節ごとにご紹介していくコンテンツです。

第1章 悩む。

賃貸か、持ち家か、それが問題だ。

2 マイホームのドアは、天国か地獄へ通じています。

 持ち家が原因で離婚する人もいます。

 それは、ハイリスク・ハイリターン、あるいはハイリスク・ローリターンの危険に満ちたプロジェクト。映画『ミッション:インポッシブル』のイーサン・ハント、あるいはテレビドラマ『大江戸捜査網』の面々に通じる試練です。「死して屍、拾う者なし、死して屍、拾う者なし」っていうアレですね。

 家を獲得して家族を失う。ものすごい悲劇。でもレアケースではないのです。ほとんどの人は経験値ゼロで人生最大の買い物に挑むのです。2007年7月、東京23区の分譲マンションの平均価格が7000万円を超えました。住宅ローンの利息を加算すれば、軽く1億円を超えるでしょう。契約書に捺印するシーンをイメージしただけで、手のひらが汗ばんできます。失敗の許されないプロジェクトであり、再試合のないゲームなのです。マイホームは家計に大きな負荷をかけます。夫婦にたくさんのハードルを与えます。資金を準備し、物件を探し歩き、議論を重ね、ローンを背負う。会社は遠くなり仕事の時間は増え、夫婦が疎遠になってゆく。ちなみにフランス人の場合、離婚の最大の原因はマイホームの取得だとか。

 ふー。わたしも他人事とは思えませんでした。わたしはいま、東京23区で持ち家一戸建てに住んでいます。持ち家プロジェクトのスタートが2005年4月。「既存住宅性能表示」で物件をチェックしたのち、2006年2月に入居しました。その間、多いときは3日続けて夫婦ゲンカをした記憶があります。週末に物件を見てケンカして、月曜日にまたケンカする。プロジェクト最初のころは、おたがい冷静を保って「議論」していました。

 しかし、プロジェクト後半になると感情的になる場面が増え「口論」していました。コピーライターは議論やディベートの専門家なのに、恥ずかしいことです。冬の真夜中1時ごろ、妻に向かって「お前の好きしろバカヤロー」あるいは「お前もう京都に帰れバカヤロー」と言った記憶もあります。しかも、そのとき妻は妊娠7か月だったように思います。反省しても許されない暴言です。わたしは妻や子どもたちのために、なるべくいい家を手に入れようと必死でした。

 持ち家のことを真剣に考えれば考えるほど多大なエネルギーを消耗します。興味深いのは、衝動買いした人が必ず欠陥住宅にあたるわけではなく、吟味してもハプニングは起こるということです。経験値ゼロを補うために住育の必要性を痛感した一年間でした。

 マイホーム計画が持ち上がるとき、人は何らかの節目を迎えています。多忙な時期と重なるのです。しかもマイホームは多くの場合、出産と同様に年齢の壁があります。45歳を過ぎると、ローンが組みづらくなるような気がしました。わたしは当時45歳。勤め人ではありませんし、家のローンを組むなんて最初で最後のチャンスでした。失敗を防ぐためには準備が必要です。サンダル履きで登山に行ってはいけないと思います。

【準備の一例】①1冊でもいいから、住宅に関する同じ本を夫婦で読むべきです。最初は読みやすくて理解しやすい入門書。マンガでも多くの知識が得られます。『マンガでわかる 家づくり』(村瀬春樹作・中尾佑次画・月刊ハウジング編/講談社)など。②落ち着いて話し合える時間や環境を用意。慣れない作業が大量に発生。③話し合ったことは、紙に書いて情報を共有。④あせらない。理想的には1年か2年、じっくり住まいのことを勉強するぐらいの鷹揚さがいいんじゃないでしょうか。⑤大学ノートや2穴ファイルを用意。書いたり貼ったりするノート。そして資料をとじるためのファイルです。磁石、懐中電灯、メジャーなども役に立ちます。

続く

投稿者プロフィール

竹島靖
竹島靖
1960年生まれ。東京都在住。コピーライター、プランナー、日本住育の会代表。日本では導入例がきわめて少ない既存住宅性能表示を利用して耐震診断をおこない、中古住宅を購入。その後に耐震工事を実施。「日本住育の会」は、「よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動」をおこなう非営利の団体。2006年5月設立。
住育二部作の後編は、『危ない「住活」』(竹島靖著/竹書房新書/紙版2013年刊・電子書籍版2019年刊)。著作は、単著2冊および共著5冊で合計7冊。コピーライターとしては、宣伝会議賞金賞・銀賞・銅賞など15の賞を受賞。

【住育】じゅういく
①「住まい」に関する教育。
②キレない子どもをつくる、正しく子どもを導くなどに限らない、体系的な見識。
③知らないことは教えられません。子どもたちに「住育」する前に、まず大人が最低限の「住まい観」を養うべきです。
④よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動。
⑤たんなる営利目的の手段として「住育」が使われるときは、警戒が必要です。
(日本住育の会による定義/2007年10月現在)
category:住育のすすめ  |    |  2020.02.19

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