住育のすすめ 8「モデルハウスは、お客様ホイホイです」
※この記事は、『住育のすすめ~住まいを考える50の方法~』(竹島靖著/角川SSC新書/2007年刊)を1節ごとにご紹介していくコンテンツです。
第2章 建てる。
最低でも100年使うという発想。
8 モデルハウスは、お客様ホイホイです。
モデルハウスは、ぜひ参考にしないでください。モデルハウスは、絵に描いた餅ですから。白状します。持ち家プロジェクトを進めているころの話。ほんの一時期ですが、ハウスメーカーで建てるのも悪くないんじゃないかと思ってました。新興勢力の社長が書いた本を読みました。合理的ビジネスモデルを構築して、リーズナブルで良質な家を提供する。行間からは、理想に裏打ちされた情熱がほとばしっていました。妻の希望もあり、その会社を含む埼玉県の住宅展示場へ足を運びました。
モデルハウスに対する偏見があったとはいえ、やっぱりモデルハウスって、モデルにならないなあという実感。わたしの見た限りでは広さ、仕様、設備などの点で実際の生活とは掛け離れており、こんな暮らしができたらいいなあと勝手に妄想をふくらませる場所。イメージハウス。あるいはマジックハウスと呼ぶのが的確です。そう、モデルハウスは陥穽に満ちています。美しい花や緑をまとった一軒家が、のびのびと建っている。そもそもあんな広い土地は、いくらするのでしょうか。不自然なほど広い玄関。ゆったりした間取り。吹き抜け。オプションのてんこ盛りで家具だって豪華。コルビュジエのグランコンフォールに身を沈め、トップライトから降り注ぐ陽光にうっとりと目を細める。ほら、もう術中にはまっています。予算にふさわしい土地を想定し、すべての家具を視覚から追い出し、標準仕様でシミュレーションできる人なんて、そんなにいません。そうそう、あの壁に飾ったアンセル・アダムスのオリジナルプリントも備品ですからね。奥さん。
しかも高級天然木を謳う内装だって突板だらけ。さらに合成樹脂加工だったりします。なんてことはない、直接手を触れるのは木でなく化学物質。オーク、チェリー、ウォールナット、ローズウッド。どんな銘木が使われていても、あなたが触っているのは化学物質です。もっと悪質なのは木目を印刷している場合。しかしフェイクを見破ることのできない人が多数派です。合板、集成材、ビニールクロス。化学物質てんこ盛り。このあたりはファストフードに通じています。しかも、こんな不健康で厚化粧に装飾されたモデルハウスの建築費は、ざっと一億円という話を耳にしたこともあります。それでもハウスメーカーに頼みたい人がいれば、こんな意見をご紹介。「私が一生面倒を見ます」という殺し文句に関して。
「ハウスメーカーの営業マンには必ず転勤がある。クレームを言いたい相手は転勤先、そんなことは常識である」(『スローハウジングで思い通りの家を建てる』桑原あきら著/草思社)。わたしはモデルハウスを訪れたとき、入り口でサインしませんでした。営業攻勢がイヤだったからです。ハウスメーカーが喧伝する、坪単価いくらという訴求も空虚に感じました。延べ床面積の算定法。多くの場合オプション追加となる現実。そして、設計料は無料という妄言。設計料は発生しますが、ほかの項目に吸収させているだけです。
欲望のベクトル。見識のレベル。住宅産業は、生活者に合わせてマーケティングを展開します。このていどの国民に、このていどの政治家。そんな言葉に準じて考えると、こんなモデルハウスや住宅産業を要求しているのは、わたしたちなのです。生活者の住まいに関する見識が向上すれば、状況は改善されてゆくでしょう。
住宅は人体、家計、環境、風景、未来などに関して大きなインパクトをあたえます。ハウスメーカーは、ハウスメーカーにしかできない使命があると思います。ハウスメーカーならではのアプローチで、いい家の本質に肉薄する。そして公正な情報開示をおこない、良質な家を適正価格でつくること。困難ではありますが、不可能ではないはずです。
投稿者プロフィール
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1960年生まれ。東京都在住。コピーライター、プランナー、日本住育の会代表。日本では導入例がきわめて少ない既存住宅性能表示を利用して耐震診断をおこない、中古住宅を購入。その後に耐震工事を実施。「日本住育の会」は、「よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動」をおこなう非営利の団体。2006年5月設立。
住育二部作の後編は、『危ない「住活」』(竹島靖著/竹書房新書/紙版2013年刊・電子書籍版2019年刊)。著作は、単著2冊および共著5冊で合計7冊。コピーライターとしては、宣伝会議賞金賞・銀賞・銅賞など15の賞を受賞。
【住育】じゅういく
①「住まい」に関する教育。
②キレない子どもをつくる、正しく子どもを導くなどに限らない、体系的な見識。
③知らないことは教えられません。子どもたちに「住育」する前に、まず大人が最低限の「住まい観」を養うべきです。
④よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動。
⑤たんなる営利目的の手段として「住育」が使われるときは、警戒が必要です。
(日本住育の会による定義/2007年10月現在)
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