住育のすすめ 4「家は、人生を楽しむ最高の道具です」
※この記事は、『住育のすすめ~住まいを考える50の方法~』(竹島靖著/角川SSC新書/2007年刊)を1節ごとにご紹介していくコンテンツです。
第1章 悩む。
賃貸か、持ち家か、それが問題だ。
4 家は、人生を楽しむ最高の道具です。
住まいを通じて、人生をリデザインすることも可能です。
わたしは持ち家プロジェクトが持ち上がったとき世間体や既成概念は捨て、一人でブレーンストーミングしました。いつ首都圏直下型の大地震がくるかもしれないのに、マイホームなんて最初は気乗りしませんでした。それに、このまま地球温暖化が進めば東京もたくさん水没します。欠陥住宅に巻き込まれるのもイヤでした。
で、最初に考えたプランはこうです。さら地を手に入れて、クルーザーとキャンピングカーを置こうという計画。軟弱地盤でも平気です。火事の炎が迫ってきたらエンジンをかけます。堤防が決壊してもだいじょうぶです。週末になったら本領発揮。今週は海へ、来週は山へ、そんな昔日の若大将のようなオフタイムも可能ですし。それにこの住まいなら欠陥が発生しても、建築基準法なんてザル法じゃなくPL(製造物責任)法の適用ではないかと勝手に思っていました。いま考えても完璧なリスク回避だと思うのですが、打ち合わせのとき妻へ言ったら鼻で笑われて一瞬でボツになりました。
この一連の出来事で、わたしは実感しました。週末に山や海のそばで暮らすっていいなあ。持ち家を欲しいと思ったことはなかったのですが、別荘っていいなと夢想したわけです。自分の中の夢や欲望に気づいた瞬間です。
リタイアしたら田舎暮らしという生き方もあります。遊休農地を手に入れて晴耕雨読も可能です。廃校になった小学校を借りて暮らしている移住者もいます。元気なうちに日本中を旅行して、第二の人生の候補地を決めるのもいいじゃないですか。田舎暮らしを急に始めると予想外の事態で後悔する人も少なくないようですから、とりあえず週末の家を用意してウイークエンドスローライフという手もあります。別荘は管理がたいへん。そんな田舎暮らしのリアルに軽く失望したあなたは、いっそホテル暮らしなんてどうでしょう。究極の上げ膳据え膳。横浜のホテルニューグランドで過ごしたのは、作家の大佛次郎。赤坂の東京全日空ホテルに暮らしたのは、映画評論家の淀川長治。
いまや海外で暮らすのも、べつに贅沢ではありません。評論家の立花隆さんは、『パリ住み方の記』(戸塚真弓著/講談社文庫)解説のページでフランスのブルゴーニュ地方にある、著者の隣の別荘を買ったと書いています。「ヴィラール・フォンテーヌまで行くと驚くほど安い。なんと床面積が二百平方メートルあり、それに千五百平方メートルの広大な庭がついて、日本円にして約五百万円なのである」「もちろん、ブルゴーニュに家を買っても、そこに行くためには飛行機代がかかるが、日本でリゾートマンションを買ったつもりになれば、毎年夏に一家でブルゴーニュに行くという贅沢を三十年間つづけても、そっちのほうがはるかに安あがりなのである」。第二の人生の候補地を見つけるロケハンとして、海外旅行するというのもいいですよね。
あるいは、サーファーたちが集まって、週末のためにコーポラティブハウスをつくった千葉県の例。熱気球を格納して趣味の拠点にするため、一軒家を仲間で共有している茨城県の例。着ること食べることに関して、日本人はとてもクリエイティブだし、貪欲だと思います。もっと住まうことを味わい、楽しんでみたいものです。いったん常識や世間体を外して、やりたいことをやる。住みたいところに住む。人生は楽しむためにある。それぐらい強気に思っていて、ちょうどいいんじゃないでしょうか。だって、放っておいても過酷なことは向こうからやってきますから。
続く
投稿者プロフィール
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1960年生まれ。東京都在住。コピーライター、プランナー、日本住育の会代表。日本では導入例がきわめて少ない既存住宅性能表示を利用して耐震診断をおこない、中古住宅を購入。その後に耐震工事を実施。「日本住育の会」は、「よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動」をおこなう非営利の団体。2006年5月設立。
住育二部作の後編は、『危ない「住活」』(竹島靖著/竹書房新書/紙版2013年刊・電子書籍版2019年刊)。著作は、単著2冊および共著5冊で合計7冊。コピーライターとしては、宣伝会議賞金賞・銀賞・銅賞など15の賞を受賞。
【住育】じゅういく
①「住まい」に関する教育。
②キレない子どもをつくる、正しく子どもを導くなどに限らない、体系的な見識。
③知らないことは教えられません。子どもたちに「住育」する前に、まず大人が最低限の「住まい観」を養うべきです。
④よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動。
⑤たんなる営利目的の手段として「住育」が使われるときは、警戒が必要です。
(日本住育の会による定義/2007年10月現在)
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