住育のすすめ 6「3つの依頼先には、一長一短があります」
※この記事は、『住育のすすめ~住まいを考える50の方法~』(竹島靖著/角川SSC新書/2007年刊)を1節ごとにご紹介していくコンテンツです。
第2章 建てる。
最低でも100年使うという発想。
6 3つの依頼先には、一長一短があります。
建築家って敷居が高い。
多くの欠陥住宅は工務店がつくっている。
ハウスメーカーは何となく安心。
これらはみな生活者の勝手な思い込みです。わたしの持ち家プロジェクトは、2005年4月に始まり、2006年2月の引っ越しでフェイズ1が終結しました。初期の段階では家を建てる可能性もあったので、家づくりに関する本をたくさん読み、各種のセミナーへ参加。気になる建築家や工務店の代表とコミュニケーションを図り、オープンハウスにも足を運びました。わたしは建具屋の孫ですから、小さいころたくさん新築の現場を目にしました。家の建て方や産業の構造もずいぶん変わったんだなという実感を持ちました。
施主によって最適の依頼先は異なります。条件や優先順位を整理して、依頼先の長所短所を把握したうえで決めるのがベストだと思います。順番に検証。
まず建築家です。設計というソフトでお金を稼ぐ立場。スタンドカラーのシャツが好きです。いかにも芸術家やセンセイといった風貌の人もいれば、気さくな人もいます。「設計監理料」は、建築費の10%という方が多かったです。一級建築士の肩書を盲信するのは危険です。木造住宅の経験ゼロの人もいます。実務経験の少ないペーパー建築士もいます。
テレビ番組の欠陥住宅に登場するのは、いつも工務店の建てた家です。なぜでしょうか。テレビ局の大スポンサーにハウスメーカーがいますから、お客様の悪口やスキャンダルは流せません。そういう構図になっているだけで、建築家やハウスメーカーだって欠陥住宅をつくります。工務店のトップには、家づくりに関する哲学や見識を持った人も多く見られます。いっぽう、手抜きを量産して平気な工務店もいます。
不動産業者に同行してもらい、検討中の新築物件を担当する工務店へ話を聞きにいったことがあります。古い家屋を壊してさら地で新築するんだったら、地盤調査なんかしない。そう断言したのはS町のM工務店の社長。スウェーデン式サウンディング試験の地盤調査なら数万円です。家づくりが好きな工務店もあれば、家づくりを通じた金儲けが好きな工務店もあります。
ハウスメーカーに対するこんな意見。「住宅メーカーの住まいでは、有機溶剤の危険性から逃れることはできません」「これから子どもをつくる人は、住宅メーカーに頼んで新築するのはやめるのが賢明です。有機溶剤は飛ぶ(揮発する)のが早いために減るのも早いので、中古住宅なら心配はいりません」(『健康な住まいを手に入れる本』小若順一・高橋元・相根昭典編著/コモンズ)
それから、有能な住宅プロデューサーに頼むという方法もあります。施主と依頼主のあいだに立って、家づくりを仕切ってくれるはずです。わたしが家を建てるとしたら、この方法をとると思います。家づくりの関係者が増えるほど意見の調整はたいへんです。優秀な調整役が一人いれば、家づくりって楽しいだろうなと思いました。
いずれにしろ家づくりのセミナーに一度、顔を出してみると発見があります。東京・新宿「リビングデザインセンターOZONE」では、無料・有料のセミナーを定期的に開催。本などに載せられない実話も聞けました。東京・千駄ヶ谷「NPO法人家づくりの会」。会員制ですが、さまざまな建築家と直接コミュニケーションを図れました。すべての業界には、メディアに載せられないタブーやリアルがあります。セミナーに足を運び、質問をぶつけてみるのは得難い体験です。その時間は必ず住育に役立ちます。住まいとの付き合いは一生続くのですから。
続く
投稿者プロフィール
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1960年生まれ。東京都在住。コピーライター、プランナー、日本住育の会代表。日本では導入例がきわめて少ない既存住宅性能表示を利用して耐震診断をおこない、中古住宅を購入。その後に耐震工事を実施。「日本住育の会」は、「よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動」をおこなう非営利の団体。2006年5月設立。
住育二部作の後編は、『危ない「住活」』(竹島靖著/竹書房新書/紙版2013年刊・電子書籍版2019年刊)。著作は、単著2冊および共著5冊で合計7冊。コピーライターとしては、宣伝会議賞金賞・銀賞・銅賞など15の賞を受賞。
【住育】じゅういく
①「住まい」に関する教育。
②キレない子どもをつくる、正しく子どもを導くなどに限らない、体系的な見識。
③知らないことは教えられません。子どもたちに「住育」する前に、まず大人が最低限の「住まい観」を養うべきです。
④よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動。
⑤たんなる営利目的の手段として「住育」が使われるときは、警戒が必要です。
(日本住育の会による定義/2007年10月現在)
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