住育のすすめ 5「日本の家の平均寿命は、わずか30年です」

※この記事は、『住育のすすめ~住まいを考える50の方法~』(竹島靖著/角川SSC新書/2007年刊)を1節ごとにご紹介していくコンテンツです。

第2章 建てる。

最低でも100年使うという発想。

5 日本の家の平均寿命は、わずか30年です。

 世界一長命な人々が、世界一短命な住宅に住んでいる。

 日本は狂った国です。多くの場合、35年の「ローン奴隷」となって手に入る日本の住宅。地震や風水害が多いとはいえ、じつは新築後、たった30年で取り壊されているのです。30年しかもたない質の悪い家を量産してきたのか、あるいはまだ寿命のある家を使い捨てにしてきたのか。いずれにしろ、これは先進国の中でも最低の数字。欧米では築50年、100年を超えた家が当たり前に使われ、中古住宅として売買されています。一軒の家を100年住み継ぐのか、30年ごとに破壊し建て直すのか。この差は、じつに大きい。メンテナンスして住み継ぐライフスタイルが定着すれば、生きるために必要なコストは激減します。

 戦後、日本国は豊かになったといわれていますが、日本人は豊かになったのでしょうか。モノは満たされましたが、ココロは乾いています。いくら時間があっても足りません。秒針に追われるように働いています。日本は、毎年の自殺者が3万人を超える国。所得水準は高いといわれていますが、「ローン奴隷」として搾取されている金額を考えれば、可処分所得は決して大きいと思えません。憲法で保障された健康で文化的な生活を営めるクオリティーを伴った賃貸住宅を見つけて一生家賃を払い続けるか、「ローン奴隷」になるか。いずれにしろ、住まいのコストが高すぎるのです。過労死寸前で滅私奉公して手に入れた家は、「ウサギ小屋」と揶揄されるシロモノです。わたしは自分の持ち家プロジェクトが始まって以来、セミナーや勉強会へ足を運びました。プロジェクトが終わるまでに読んだ本や資料を積み重ねると、4mほどになるでしょう。知れば知るほど、日本の家は貧しいのです。スクラップ・アンド・ビルドを前提にした使い捨て商品。それが日本の家の実態です。

 2040年、北極の氷が消滅。宇宙から地球の全貌を眺めてみましょう。カメラをアップにすれば、世界の海岸線や日本の輪郭がだいぶ変化しています。「2040年問題」。この過酷なシナリオと「日本の家の30年問題」は、密接にリンクしています。住宅が原因のすべてではないにしろ、日本の建築に際して排出される二酸化炭素は、なんと全世界の1パーセントとか。2007年8月、岐阜県、埼玉県において日本の最高気温が更新されました。今後、異常気象が当たり前になってゆくでしょう。わたしたち日本人は被害者であり、同時に加害者なのです。地球環境問題を告発した『不都合な真実』(2006年/アメリカ映画)。家を建てようという人は、ぜひ一度ご覧になってください。住宅づくりセミナーに参加したとき、講師から逆説的なアドバイスを聞きました。一番環境にやさしいのは、家を建てないこと。真実は、ときに皮肉です。わたしたちにできるのは、長持ちする家を建て、住み継ぐライフスタイルにシフトしてゆくこと。「日本の家の30年問題」は、もう先送りできない課題。せめて100年使うという発想でプランニングしてください。なお、日本には、すでにおよそ700万もの戸数の空き家があるのです。

【100年住み継ぐ家の4か条】①耐久性。地盤や構造など、あとで変えにくい部分ほど吟味が必要です。②可変性。家族の構成やライフスタイルが変わったら、設備、内装、間取りなど変えられること。③普遍性。飽きたから建て直す行為は、もう許されません。④メンテナンス性。手入れのしやすさは重要。自然素材なら「経年美化」し、愛着もわきます。

 家は100年使いましょう。質のいいものをつくって、手入れしながら暮らしましょう。家がアンティークになります。誇りの持てる家が増えれば、しぜんと街が美しくなってゆきます。家は三代使いましょう。あなたの家は、もはやあなただけの家ではないのです。

続く

投稿者プロフィール

竹島靖
竹島靖
1960年生まれ。東京都在住。コピーライター、プランナー、日本住育の会代表。日本では導入例がきわめて少ない既存住宅性能表示を利用して耐震診断をおこない、中古住宅を購入。その後に耐震工事を実施。「日本住育の会」は、「よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動」をおこなう非営利の団体。2006年5月設立。
住育二部作の後編は、『危ない「住活」』(竹島靖著/竹書房新書/紙版2013年刊・電子書籍版2019年刊)。著作は、単著2冊および共著5冊で合計7冊。コピーライターとしては、宣伝会議賞金賞・銀賞・銅賞など15の賞を受賞。

【住育】じゅういく
①「住まい」に関する教育。
②キレない子どもをつくる、正しく子どもを導くなどに限らない、体系的な見識。
③知らないことは教えられません。子どもたちに「住育」する前に、まず大人が最低限の「住まい観」を養うべきです。
④よりよく生きるために、よりよく住まうことを学ぶ運動。
⑤たんなる営利目的の手段として「住育」が使われるときは、警戒が必要です。
(日本住育の会による定義/2007年10月現在)
category:住育のすすめ  |    |  2020.05.19

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